この記事でわかること
- 特別支援学校(病弱)の対象となる法律上の基準
- 対象となる病気の種類と、近年増えている疾患の傾向
- 学べる3つの場(特別支援学校・特別支援学級・通級指導)の違い
- 入院中でも授業に参加できる分身ロボットの仕組み
- 施設で働く人・保護者が知っておきたい注意点
Q. 特別支援学校の病弱教育の対象は? → A. 学校教育法施行令第22条の3が定める基準に該当し、慢性の病気や体の弱さのために継続した医療や生活面の配慮が必要な子供が対象です。入院中の子供だけでなく、通院しながら自宅や施設から通学している子供も含まれます。慢性の病気で入院や通院を続けているお子さんが、学校の勉強から取り残されてしまうのではないかと心配になったことはありませんか。編集部で文部科学省の資料や東京都教育委員会の公開情報を確認したところ、対象となる病気の種類は年々広がっており、今の制度は10年前とはかなり違う姿になっていることがわかりました。この記事では、対象となる基準から、入院先の病室からでも授業に参加できる分身ロボットの活用事例まで、順を追って整理します。
特別支援学校の病弱教育とは?
特別支援学校の病弱教育とは、慢性の病気や体の弱さのために継続した医療や生活面の配慮を必要とする子供に対して、小中学校や高等学校に準じた教育を行う仕組みです。病院に入院している子供だけでなく、通院しながら自宅や施設から通学している子供も対象に含まれます(当サイトの「特別支援学校とは?対象・種類・違いをわかりやすく解説」で、病弱以外の障害種を含めた全体像をまとめています)。
「病弱」も「身体虚弱」も医学用語ではなく、学校教育の場で使われる一般的な用語です。病弱は心身の病気のため弱っている状態を、身体虚弱は病気ではないものの体調を崩しやすい状態を指します。どちらも「継続して」医療や生活規制が必要になる場合に対象となるため、風邪のような一時的な体調不良は含まれません。
病弱教育を行う学校には3つの形があります。特別支援学校(病弱)、小中学校内に置かれる病弱・身体虚弱特別支援学級、そして通常の学級に在籍しながら一部の指導だけを受ける通級による指導です。それぞれの違いは後述します。
対象となる基準は?学校教育法施行令第22条の3
特別支援学校(病弱)の対象となる子供の基準は、学校教育法施行令第22条の3に定められています。条文では、病弱者の障害の程度を次の2つに区分しています。
| 区分 | 障害の程度 |
|---|---|
| 第一号(病弱) | 慢性の呼吸器疾患、腎臓疾患及び神経疾患、悪性新生物その他の疾患の状態が継続して医療又は生活規制を必要とする程度のもの |
| 第二号(身体虚弱) | 身体虚弱の状態が継続して生活規制を必要とする程度のもの |
ポイントは「継続して」という言葉です。実はこの基準、平成14年より前は「六月以上」の医療や生活規制を必要とする程度とされていました。しかし医療の進歩によって、治療開始時の予想より早く回復するケースが増えてきました。それでも短期間の入院で学習が止まってしまう問題は変わりません。そこで平成14年の改正で「六月以上」という日数の縛りがなくなり、「継続して」に改められています。つまり、たとえ入院期間が短くても、繰り返し医療や生活規制が必要な状態であれば対象になり得るということです。
もうひとつ誤解されやすいのが、対象者を入院中の子供に限定していない点です。文部科学省の資料でも「入院中のものだけに限定していない」と明記されています。実際に特別支援学校(病弱)には、自宅や寄宿舎、施設から通学する子供が多く在籍している学校もあります。学校によっては通学生しかいないというケースさえあるほどです。
対象となる病気にはどんなものがある?
病弱教育の対象となる病気は非常に幅広く、すべてを一律に列挙することはできません。そのため政令では代表的な疾患を示し、それ以外は「その他の疾患」として扱っています。文部科学省の資料が挙げる代表的な疾患には、次のようなものがあります。
- 気管支喘息(昭和50年代以降もっとも多い病気で、有病率は小学生6.8%、中学生5.1%という調査結果があります)
- 腎臓病(ネフローゼ症候群、慢性糸球体腎炎など)
- 心臓病(先天性の心室中隔欠損や、後天性の心筋症、川崎病の後遺症など)
- 糖尿病(子供の場合はインスリン注射が必須な1型糖尿病が大部分)
- 悪性新生物(白血病をはじめとする小児がん)
- 筋ジストロフィーなどの神経・筋疾患
近年の傾向として見逃せないのが、心身症やうつ病、適応障害といった精神疾患を抱える子供の増加です。文部科学省の資料が引用する全国病弱虚弱教育研究連盟の調査によると、疾患群別の割合では「心身症など行動上の障害」が最も大きな割合を占めるようになってきています。特別支援学校(病弱)には、自閉症や注意欠陥多動性障害などの発達障害を併せ持つ子供や、不登校やいじめの経験がある子供が転入してくることも増えています。知的障害や肢体不自由など、ほかの障害を併せ有する子供の学びの場については、当サイトの知的障害の記事や肢体不自由の記事でも紹介しています。
ここで気をつけたいのは、発達障害そのものは病弱教育の対象ではないという点です。学習障害や注意欠陥多動性障害の子供は、通常の学級での学習が基本とされています(当サイトの「特別支援学校は発達障害の子どもも対象になる?」で詳しく解説しています)。ただし、成長の過程でうつ病や適応障害の診断が加わった場合には、病弱教育の対象として特別支援学校(病弱)に転校してくるケースが実際に増えているとされています。
学べる場所は3つ?それぞれの違い
病弱教育を受けられる場は、大きく分けて3種類あります。子供の病状や必要な支援の度合いによって、どこで学ぶかが決まります。
| 学びの場 | 対象の目安 | 設置場所 |
|---|---|---|
| 特別支援学校(病弱) | 施行令22条の3に示す程度の病弱・身体虚弱 | 病院に隣接・併設。分校や分教室、訪問教育もあり |
| 病弱・身体虚弱特別支援学級 | 持続的又は間欠的に医療・生活の管理が必要な程度 | 小中学校内が多数(全体の8割以上)、一部は病院内 |
| 通級による指導 | 通常の学級におおむね参加でき一部特別な指導が必要な程度 | 通常の学級に在籍しながら一部だけ利用 |
特別支援学校(病弱)は病院に隣接・併設されていることが多く、病院内に教室や職員室を確保しています。分校・分教室として運営している例や、病院や自宅への訪問教育を行っている例もあります。東京都教育委員会の公開情報によると、都立の特別支援学校6校が都内5つの病院に分教室を設置しています。分教室方式では「原則として毎日」授業が行われています。教室に通えない子供には、教員と病弱教育支援員が病室を訪れる訪問教育方式もあり、こちらは週5日・1回2時間程度を標準に行われています。
病弱・身体虚弱特別支援学級は、実は病院内よりも小中学校内に設置されている数のほうがずっと多いという実態があります。文部科学省の資料によれば、病弱・身体虚弱特別支援学級のうち病院内に設置されているのは全体の2割未満です。8割以上は小中学校の校舎内に置かれています。退院後も通院や服薬、感染症予防などのために特別な配慮が必要な子供のために、居住地の小中学校内に学級が設けられているケースが多いためです。
入院中でも授業に参加できる?分身ロボットの活用
病室にいながら教室の授業に参加できたら、と思ったことはありませんか。実はこの願いは、分身ロボットという形ですでに実現し始めています。
東京都教育委員会とベネッセこども基金は、分身ロボット「OriHime」を使った病弱教育の遠隔授業プロジェクトを2015年から実証実験として開始しました。子供がiPadなどで遠隔操作し、首や手の向きを自由に動かして黒板を確認したり、身振りを交えて会話したりできる仕組みです。当初は都立の光明特別支援学校など3校で始まりました。5年ほどの実証実験を経て、2021年4月からは東京都の特別支援学校5校で正式に導入されています。
この仕組みが評価されているのは、単に授業を受けられるという以上の効果があるからです。教員が病床を訪ねる訪問指導や、一方通行になりがちなビデオチャットでの授業とは違います。ロボットを介することで、子供自身が教室の中を見たい方向に向けたり、休み時間に友達と雑談したりできます。主体的に学校生活へ参加できるようになる点が特徴です。顔を映さずに参加できる点は、外見の変化に不安を感じやすい入院中の子供にとって、心理的な負担を減らす効果もあると報告されています。学習発表会で効果音を演奏する係を任されるなど、勉強以外の場面での活用事例も出てきました。
こうした遠隔教育の広がりには背景があります。通学が難しい子供に対してICTを活用するよう求めた、文部科学省の通知(平成25年3月「病気療養児に対する教育の充実について」)の方向性とも一致しているのです。入院の短期化・頻回化が進む中で、テクノロジーを使って学習の空白を埋める取り組みは、今後さらに広がっていくと考えられます。
高等部段階で入院したらどうなる?
小中学校段階では病弱教育を受けられても、高等学校段階になると事情が変わることがあります。特別支援学校(病弱)には小学部・中学部・高等部が設置されていますが、分校や分教室では高等部が設置されていない所が多いためです(特別支援学校の高等部そのものについては、当サイトの「特別支援学校の高等部とは?3年間の学び・学科・卒業後の進路」もあわせてご覧ください)。
そのため、高校生の年代の子供が入院した場合は注意が必要です。入院した病院に隣接する特別支援学校(病弱)で教育を受けられるかどうかは、学校や都道府県教育委員会に事前に確認しなければなりません。後期中等教育段階では転入学・編入学の際に修得単位の扱いも問題になりやすく、文部科学省の通知でも留意事項として挙げられています。高校生の入院が決まった際は、早めに現在の学校の担任や養護教諭を通じて、転入先の候補となる特別支援学校(病弱)に問い合わせておくと安心です。
施設で働く人・保護者が知っておきたいポイント
病弱教育の目的は、単に学習の遅れを取り戻すことだけではありません。文部科学省の資料では、病気療養児への教育に4つの意義があるとまとめられています。「積極性・自主性・社会性の涵養」「心理的安定への寄与」「病気に対する自己管理能力」「治療上の効果」の4つです。私自身、この4つの意義を読んで気づいたことがあります。勉強の遅れを心配する保護者の視点だけでなく、子供の心の安定という視点からも病弱教育が設計されているという点です。
利用の流れとして押さえておきたい点があります。特別支援学校(病弱)や病院内の特別支援学級で学ぶには、現在通っている学校(前籍校)からの転校手続きが必要になるという点です。退院時は基本的に前籍校へ復帰する仕組みになっており、都外や県外に住んでいる子供でも区域外就学の手続きを使えば都内の病院での教育を受けられます。
施設で子供や保護者と接する機会がある方に、知っておいてほしいことがあります。入院中の子供の中には「教育を受けられることを知らない」ケースや、「無理して勉強させて病気が悪化したら」と保護者が遠慮してしまうケースがあるのです。病弱教育の制度そのものを知らないために、教育を受ける機会を逃している子供が一定数いるというのは、編集部が資料を読み込んでいて意外だった点のひとつです。学校生活での運動や行事の配慮については「学校生活管理指導表」という様式が広く活用されており、主治医の意見をもとに個々の病状に応じた対応が決められます。なお、病気による障害の程度を判定する仕組みという意味では、当サイトの「障害支援区分とは?」で紹介している認定調査とは判定の観点が異なる点も、あわせて押さえておくと理解が深まります。
よくある質問
Q. 特別支援学校(病弱)は入院していないと通えませんか?
A. いいえ、通えます。病弱教育の対象は入院中の子供に限定されていません。自宅や寄宿舎、施設から通学している子供も多く在籍しており、学校によっては通学生しかいない場合もあります。
Q. 短期間の入院でも特別支援学校(病弱)の対象になりますか?
A. なる可能性があります。以前は「六月以上」という日数の基準がありましたが、平成14年の改正で「継続して」医療や生活規制が必要な状態であれば対象となるよう変更されました。短期間の入院を繰り返す場合も含まれます。
Q. 発達障害は病弱教育の対象になりますか?
A. 発達障害そのものは対象になりません。学習障害や注意欠陥多動性障害の子供は通常の学級での学習が基本です。ただし、成長の過程でうつ病や適応障害などの診断が加わった場合には、病弱教育の対象として特別支援学校(病弱)に在籍することがあります。
Q. 病弱・身体虚弱特別支援学級は病院の中にあるのが基本ですか?
A. 実際には逆で、小中学校の校舎内に設置されている学級のほうが多数派です。文部科学省の資料では、病院内設置は全体の2割未満で、8割以上が小中学校内に置かれているとされています。
Q. 入院中でも友達と交流する方法はありますか?
A. あります。分身ロボット「OriHime」を使った遠隔授業では、休み時間に教室にいる友達と雑談したり、ロボットを介して一緒に移動したりできる事例が報告されています。ビデオ通話とは違い、自分の意思で見たい方向を向けるのが特徴です。
Q. 高校生が入院した場合、どこの学校に転校すればいいですか?
A. 入院した病院に隣接・併設する特別支援学校(病弱)が候補になりますが、分校・分教室では高等部が設置されていないことが多いため、事前に学校や都道府県教育委員会に確認が必要です。修得単位の取扱いも学校ごとに異なるため、早めに相談してください。
Q. 退院したら元の学校にすぐ戻れますか?
A. 病気の種類によっては、退院後も通院や感染予防のためすぐに前籍校へ通学するのが難しい場合があります。そのため退院後も引き続き病弱教育の対象として配慮を受けられる仕組みが用意されています。
Q. 精神疾患でも特別支援学校(病弱)に通えますか?
A. 通えます。近年は心身症やうつ病、適応障害などの精神疾患を理由に特別支援学校(病弱)に在籍する子供が増加傾向にあります。全国的な調査でも、行動上の障害を理由とする在籍が大きな割合を占めるようになっています。
この記事を書いた人:support-s-log編集部
障害福祉・特別支援教育に関する情報を継続的に取材する編集チームです。行政資料や制度解説、専門家・当事者による一次情報をもとに、障害のある方やご家族、福祉施設で働く方・働きたい方に向けて、正確でわかりやすい情報の発信を心がけています。


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