この記事でわかること
- 肢体不自由の特別支援学校に通う対象となる子どもの基準
- 各教科中心・自立活動中心・訪問教育という3種類の教育課程の違い
- 自立活動の具体的な指導内容と、医療的ケア・専門職の関わり方
- 校舎の設備やクラス編成の特徴
- 施設で働く人が利用者・保護者に説明する際に押さえておきたいポイント
特別支援学校には視覚障害・聴覚障害・知的障害・肢体不自由・病弱という5つの障害区分があります。制度全体の枠組みは特別支援学校とは何かという別記事で整理しました。この記事では「肢体不自由」の区分に焦点を絞ります。対象となる子どもの基準から、自立活動・医療的ケア・専門職の関わりまで、実務に近い視点で掘り下げます。編集部でいくつかの県立学校の公開資料を確認したところ、肢体不自由の教育には特徴がありました。他の障害区分に比べて、医療とのつながりが特に深いという印象を受けたのです。
肢体不自由の特別支援学校とは?対象となる子どもの基準
肢体不自由の特別支援学校に通えるのは、補装具を使っても歩行や筆記など日常生活の基本動作が難しい子どもです。 または、常時の医学的な観察・指導が必要な子どもも対象です。どちらか一方に当てはまれば通えます。
学校教育法施行令第22条の3の基準を公開している埼玉県立宮代特別支援学校のページによれば、基準は大きく2つに分かれます。1つ目は、補装具を使用しても歩行・筆記などの動作が困難な状態です。身体の動きに関わる器官が、病気やけがで損なわれているケースを指します。2つ目は、動作面の困難さはそこまでではない状態です。てんかん発作の管理や呼吸状態の確認など、常に医学的な観察や指導が必要な状態を指します。
肢体不自由の原因となる病気やけがは幅広いものです。脳性まひ・二分脊椎・筋ジストロフィーといった先天性のものから、事故によるけがまでさまざまです。身体のどの部位にどの程度の困難があるかは一人ひとり大きく異なるため、支援の内容も個別性が非常に高くなります。
私が複数の県立特別支援学校の公開資料を見比べたところ、同じ「肢体不自由」という区分でも支援の中身は大きく違いました。車いすでの生活が中心の子どもと、杖や装具で歩行できる子どもとでは、日々の支援内容がまったく異なる印象を受けたのです。区分名だけでは支援の中身は想像しにくいという点は、最初に押さえておきたいポイントです。
どんな教育課程で学ぶ?各教科中心・自立活動中心・訪問教育の3タイプ
肢体不自由の特別支援学校では、子どもの状態に応じて教育課程が3タイプに分かれます。通常の教科学習が中心になるとは限らない点が、他の障害区分との大きな違いです。
| 教育課程のタイプ | 主な対象 | 学びの中心 |
|---|---|---|
| 各教科等を中心とした教育課程 | 知的障害を伴わず、学習面の遅れが小さい子ども | 通常の教科学習に近い内容 |
| 自立活動を中心とした教育課程 | 重度・重複障害があり、教科学習より生活動作の獲得を優先する子ども | 自立活動(後述) |
| 訪問教育 | 通学が困難で、自宅や病院での指導が必要な子ども | 教員が定期的に訪問して行う個別指導 |
どの教育課程になるかは、入学時の判定だけで固定されるものではありません。体調や発達の変化に合わせて、学校側が保護者と相談しながら見直していく性質のものです。
自立活動とは?具体的にどんな指導をするの?
自立活動は、障害による学習・生活上の困難を主体的に改善・克服するために行う、特別支援学校独自の指導領域です。 教科の授業とは別の時間割として位置づけられています。
肢体不自由の子どもに対する自立活動では、車いすや歩行器を使った移動、姿勢の保持、手指の細かい動きの練習などが中心になります。文部科学省の学習指導要領解説(自立活動編)では、遊びや体育的な活動、作業的な活動を通じて運動機能の向上を図る指導が示されています。単なるリハビリではなく、学習や生活の基盤づくりとして位置づけられている点が特徴です。
自立活動の時間割は学年やクラスで一律に決まっているわけではありません。同じクラスの中でも、一人ひとり異なる目標を立てて個別に取り組むのが基本の形です。例えば、ある子どもは立位保持の練習を中心に据えます。別の子どもは、手指を使った操作性の向上を中心に据えるといった具合です。目標そのものが個別に設計されるのが特徴といえます。
自立活動の指導は担任だけで完結するものではありません。次の章で扱う医療専門職との連携によって、より安全で効果的な内容に組み立てられていきます。
医療的ケアが必要な子どもへの対応は?看護師の配置
たんの吸引や経管栄養など、医療的ケアが必要な子どもも肢体不自由の特別支援学校には数多く在籍しています。 その対応は教員だけでなく、学校に配置された看護師が担っています。
文部科学省が実施している学校における医療的ケアの実態調査では、看護師等の配置数が年度を追うごとに増加する傾向が示されています。ある年度の調査では、看護師等の配置数が7,000人台に達しました。前年度から一定数増加したことが報告されています。医療的ケアが必要な子どもを受け入れる学校の数も、全国で数百校規模にのぼっています。
ただし配置体制は自治体によって差があります。医療的ケアに対応できる看護師が常駐しているかどうかは、学校ごとに事前確認が必要な事項だと考えておくとよいでしょう。教育委員会が医療的ケアに関するガイドラインを策定している自治体の割合は、まだ全体の一部にとどまっています。地域差が今後の課題として指摘されているところです。
医療的ケアの内容は、たんの吸引・経管栄養のほかにも、導尿・酸素療法・気管切開部の管理など多岐にわたります。同じ「医療的ケアが必要」という括りでも、必要なケアの種類・頻度・緊急時の対応レベルは子どもによって大きく異なります。 進級や転校のタイミングでは、それまでの引き継ぎ資料を丁寧に確認する必要があります。
PT・OT・STなど専門職はどう関わっている?
肢体不自由の子どもの指導には、理学療法士(PT)・作業療法士(OT)・言語聴覚士(ST)が関わることも珍しくありません。これらの専門職は「自立活動教諭」という立場で学校に配置されるケースがあります。
例えば神奈川県では、平成20年度からPT・OT・ST・心理職の4職種を、自立活動教諭(専門職)として県立特別支援学校に配置しています。J-STAGEに掲載されている関連学会の報告によれば、現場では理学療法士の活用がやや多いとされています。必要に応じて他の職種も柔軟に活用できる体制づくりが、今後の課題です。
専門職の配置は自治体ごとの取り組みであり、すべての学校に常駐しているわけではありません。配置の有無は学校見学や個別相談で直接確認するのが確実です。専門職が常駐していない学校でも、医療機関や地域のリハビリテーションセンターと連携しながら、定期的な巡回指導を受けている場合があります。
校舎や設備は何が違う?バリアフリー設計のポイント
肢体不自由の特別支援学校の校舎は、車いすでの移動を前提としたバリアフリー設計が徹底されています。 通常の学校の設計基準とは配慮のポイントが異なります。
具体的には、スロープ・手すり・多目的トイレ・出入口の幅の確保が挙げられます。加えて、給食の運搬や重度・重複障害のある子どもの移動を考慮したエレベーターの配置も重視されます。東京都教育委員会が公表している特別支援学校施設整備標準では、動線面積の割合を総面積の40%程度と示しています。通常の学校に比べて、廊下や移動スペースにゆとりを持たせた設計になっていることがうかがえます。
体育館やプールにも、リフトやスロープを設置している学校があります。建築時期による設備の充実度の差。進路を検討する際に押さえておきたいポイントです。
クラス編成はどうなっている?重複障害学級の実態
肢体不自由の特別支援学校では、複数の障害を併せ持つ子どものための「重複障害学級」の割合が高いという特徴があります。 通常の学級編制とは異なる考え方が必要です。
学級編制の標準は法律で定められています。小学部・中学部は1学級6人が標準ですが、2つ以上の障害を併せ持つ子どもで編制する学級では標準が3人まで引き下げられます。関連する学術報告では、肢体不自由の特別支援学校における小学部・中学部の重複障害学級在籍率が53.5%(2018年度時点)に上ったとされています。他の障害区分の学校に比べて、高い水準にあることが指摘されているのです。
この背景には、視覚障害・聴覚障害・知的障害といった感覚面・認知面の障害と、肢体不自由が併存するケースの増加があります。単一障害を前提とした指導だけでは対応しきれない場面の増加。教育内容を組み立てる際に意識しておきたい変化だといえるでしょう。
施設で働く人が知っておきたいポイント
障害福祉施設で働く方が、肢体不自由のある利用者やその家族と接する場面は少なくありません。実務上押さえておきたい点を整理します。
- 医療的ケアの引き継ぎ内容を丁寧に確認する: 学校在籍中に受けていた医療的ケアの内容・頻度は、卒業後の福祉サービス利用先にもそのまま引き継がれる情報です。利用するサービスの種類によっては障害支援区分の認定が前提になる場合もあります
- 車いすや歩行器など補装具の使用状況を把握する: 学校での使用機器と、施設での対応機器が異なると、移乗介助の方法にズレが生じることがあります
- 自立活動で身につけた動作の情報を共有してもらう: 学校の自立活動教諭やPT・OTからの引き継ぎ情報があれば、施設側の支援計画に反映しやすくなります
よくある質問
Q. 肢体不自由の特別支援学校にはどんな子どもが通いますか?
A. 補装具を使っても歩行や筆記などの基本動作が難しい子ども、または常時の医学的な観察・指導が必要な子どもが対象です。原因となる病気やけがは脳性まひ・二分脊椎・筋ジストロフィーなど幅広く、状態は一人ひとり異なります。
Q. 医療的ケアが必要な子どもも通えますか?
A. 通えます。たんの吸引や経管栄養などの医療的ケアが必要な子どもも数多く在籍しており、学校に配置された看護師が対応にあたります。ただし配置体制には地域差があるため、事前に学校へ確認してください。
Q. 自立活動とは具体的に何をしますか?
A. 車いすや歩行器を使った移動、姿勢の保持、手指の動きの練習など、生活や学習の基盤となる動作を身につけるための特別支援学校独自の指導です。教科の授業とは別の時間割として行われます。
Q. 通学が難しい場合はどうなりますか?
A. 自宅や病院への訪問教育という仕組みがあります。教員が定期的に訪問し、個別に指導を行う教育課程で、通学が困難な子どもの学びを支える役割を担っています。通学自体はできても自力通学や保護者送迎が難しい場合は、条件を満たせば特別支援学校のスクールバスを利用できることもあります。
Q. PT・OT・STなどの専門職は必ずいますか?
A. すべての学校に常駐しているわけではありません。神奈川県のように理学療法士・作業療法士・言語聴覚士を自立活動教諭として配置する自治体もありますが、配置の有無は学校ごとに異なるため、個別に確認する必要があります。
Q. 校舎にはどんな設備がありますか?
A. スロープ・手すり・多目的トイレ・エレベーターなど、車いすでの移動を前提としたバリアフリー設計が徹底されています。体育館やプールにリフトを設置している学校もあります。
Q. クラスの人数はどれくらいですか?
A. 小学部・中学部の標準は1学級6人ですが、複数の障害を併せ持つ子どもで編制する重複障害学級では標準が3人まで引き下げられます。肢体不自由の学校ではこの重複障害学級の割合が高い傾向にあります。
Q. 「特別支援学校とは」「特別支援学校高等部とは」の記事との違いは何ですか?
A. 特別支援学校とはは5つの障害区分すべてを扱う総論、特別支援学校高等部とはは年齢段階(高等部)に焦点を当てた記事です。本記事は肢体不自由という障害区分そのものに絞り、自立活動・医療的ケア・専門職の関わりを深掘りしています。知的障害という別の障害区分については特別支援学校の知的障害とは?程度別の指導内容とクラス編成を解説で扱っています。


コメント