障害者控除は、本人や家族が税法上の障害者に該当するときに、所得税・住民税から一定額が差し引かれる制度です。障害の程度によって「一般の障害者」「特別障害者」「同居特別障害者」の3区分があり、控除額もそれぞれ異なります。
意外と知られていないのは、障害者手帳を持っていなくても、市区町村の要介護認定をもとに控除を受けられるケースがあるという点です。この記事では、対象者の範囲や控除額の一覧、年末調整・確定申告での申請方法に加えて、過去に申請を忘れていた分を5年さかのぼって取り戻す方法まで、実務に沿って整理しました。
この記事でわかること
- 障害者控除の対象になる人の範囲(本人・配偶者・扶養親族)
- 一般・特別・同居特別の3区分と、所得税・住民税それぞれの控除額
- 障害者手帳がなくても要介護認定で控除を受けられるケースと申請の流れ
- 年末調整・確定申告での書き方と、申請を忘れた分を取り戻す方法
障害者控除とは
障害者控除とは、納税者本人、同一生計配偶者、または扶養親族が税法上の障害者に該当する場合に、所得金額から一定額を差し引ける所得控除です。所得控除の一種であるため、税金そのものが直接減るわけではなく、課税対象になる所得を小さくすることで、結果的に所得税・住民税の負担を軽くする仕組みになっています。
障害福祉施設で働く人にとっては、利用者やその家族からお金の相談を受ける場面で説明を求められることが少なくない制度です。一方で、対象者や控除額を漠然としか把握していないと答えに困ってしまいます。まずは制度の骨格から押さえていきましょう。施設の利用要件そのものを知りたい場合は、障害支援区分の仕組みを整理した記事もあわせてご覧ください。
障害者控除の対象者
障害者控除の対象になるのは、次のいずれかに当てはまる人です。
- 納税者本人が税法上の障害者に該当する
- 控除対象配偶者(同一生計配偶者)が税法上の障害者に該当する
- 扶養親族が税法上の障害者に該当する
ここで注意したいのは、税法上の「障害者」は障害者手帳の有無だけで判断されるわけではないという点です。身体障害者手帳・精神障害者保健福祉手帳・療育手帳を持っている人はもちろん対象になります。それ以外にも、市区町村から手帳に準ずるものとして認定を受けた人など、複数の要件が用意されています。手帳を持っている場合は更新の期限を切らさないことも、控除を継続して受けるうえで大切なポイントです。
「自分は当てはまるのだろうか」と迷う場合は、国税庁が公開している「障害者と税」のページで、該当する項目があるかを確認するのが確実です。障害者手帳のメリットや等級による違いを先に押さえておくと、自分がどの区分に当てはまりそうか見当がつけやすくなります。
もう一つ見落とされがちなのが、扶養控除の対象にならない16歳未満の子どもでも、障害者控除だけは適用されるという扱いです。扶養控除と障害者控除は別枠の制度なので、「まだ扶養控除の年齢に届いていないから」という理由で申請そのものを諦めてしまうのはもったいない話です。
障害者控除の区分と金額
障害者控除は、障害の程度に応じて次の3区分に分かれており、それぞれ所得税・住民税の控除額が異なります。
| 区分 | 主な該当例 | 所得税の控除額 | 住民税の控除額 |
|---|---|---|---|
| 一般の障害者 | 身体障害者手帳3〜6級、精神障害者保健福祉手帳2〜3級など | 27万円 | 26万円 |
| 特別障害者 | 身体障害者手帳1〜2級、精神障害者保健福祉手帳1級など | 40万円 | 30万円 |
| 同居特別障害者 | 特別障害者に該当する同一生計配偶者・扶養親族と同居している場合 | 75万円 | 53万円 |
同居特別障害者は、特別障害者に該当する家族と生計を共にし、なおかつ同居しているときに適用される区分。同居していない場合は、特別障害者としての控除額(所得税40万円・住民税30万円)になります。
介護や仕事の都合で親を別居させながら生活費を負担しているケースでは、この線引きを取り違えやすいので気をつけたいところです。
控除は障害のある本人だけでなく、扶養している家族の人数分をそれぞれ積み上げられます。たとえば、同居している母(特別障害者)と、別居しているが生計を共にしている子(一般の障害者)がいる場合、双方の控除額を合算して申告できます。
障害年金・障害者手帳との違い
障害者控除は、障害年金や障害者手帳としばしば混同されますが、それぞれ役割が異なる別の制度です。障害年金は生活を支える「現金給付」、障害者手帳は各種サービスの利用資格を示す「証明書」、そして障害者控除は税負担を軽くする「所得控除」にあたります。
障害年金を受給しているかどうかと、障害者控除の対象になるかどうかは連動しません。「年金をもらっていないから控除も受けられないはずだ」と思い込んでしまうのは早計です。
三つの制度の関係を整理すると、次のように捉えると分かりやすくなります。
- 障害者手帳: 等級によって障害者控除の区分(一般・特別)が決まる根拠資料になる
- 障害年金: 所得の状況によって、障害者控除で軽減される税額の大きさが変わってくる
- 障害者控除: 手帳の等級、または要介護認定に基づく認定書をもとに、毎年申告して初めて適用される
制度ごとの申請窓口も異なります。障害年金は年金事務所、障害者手帳は市区町村の福祉窓口、障害者控除は勤務先(年末調整)または税務署が担当です。相談を受ける立場からすると、この窓口の違いを把握しているだけで案内の精度がぐっと上がると感じます。
障害年金については、受給にあたっての注意点やデメリット、受給要件を満たさず「もらえない」と言われるケースの特徴もあわせて整理しています。制度の違いにまだ迷いがある場合は、そちらも参考にしてください。
障害者手帳がなくても控除を受けられるケース
障害者手帳を持っていなくても、市区町村から「要介護認定」を受けている人は、障害者控除の対象になることがあります。根拠になるのは、市区町村が発行する「障害者控除対象者認定書」です。
介護保険の要介護認定と税法上の障害者控除は別の制度なので、要介護認定を受けているだけで自動的に控除が適用されるわけではありません。認定書の発行を申請して初めて、控除の対象として扱われる点は誤解しないようにしてください。
申請の流れは、おおむね次の4ステップで進みます。
ステップ1: 役所の福祉課・障害福祉課に電話で確認する
対象者の住んでいる市区町村の役所に電話し、「要介護認定を受けている家族の税金の控除に使いたいので、障害者控除対象者認定書がほしい。対象になるか」と伝えます。いきなり窓口に行くより先に電話で確認すると、無駄足を防げます。
ステップ2: 申請書をダウンロードして記入する
多くの自治体では、ホームページに申請書のフォーマットが公開されています(仙台市の案内ページはその一例です)。記入するのは主に、申請者(あなた)の氏名・住所・電話番号、対象者との続柄、対象者の氏名・生年月日・住所、申請理由(所得税・住民税の申告のためなど)、対象となる年です。
ステップ3: 申請書を役所に提出する
窓口への持参のほか、郵送で受け付けている自治体もあります。プリンターがない場合は、役所で用紙を受け取ることも可能です。
ステップ4: 認定書が届くのを待つ
発行までの目安はおおむね1週間程度とされていますが、自治体や時期によって差があります。年度末など窓口が混み合う時期は、通常より時間がかかることも想定しておくとよいでしょう。
認定書が届いたら、会社員は年末調整でその年の担当部署に提出すれば手続きは完了します。個人事業主や、すでに年末調整が終わってしまった年の分は、確定申告で申請します。
障害者控除でどれくらい税金が安くなるか
障害者控除でどれだけ税負担が軽くなるかは、所得金額や税率によって一人ひとり異なります。障害者控除は税額を直接減らす「税額控除」ではなく、課税所得を小さくする「所得控除」であるため、同じ控除額でも所得税率が高い人ほど軽減効果は大きくなります。
あくまで一つの目安ですが、一事業者向けの試算例として、所得税率が10%前後の年収400万円クラスの人が一般の障害者控除(所得税27万円・住民税26万円)を受けると、所得税と住民税を合わせて年間数万円ほど軽くなると言われることが多いようです。
同居特別障害者に該当し、所得税率が20%前後になる場合は、軽減額がさらに大きくなるケースもあります。
実際の金額は所得や家族構成によって変わるため、正確な金額を知りたいときは、税務署や税理士に相談するのが確実です。個人的には、この試算を目にした利用者やご家族から「思ったより大きい」と驚かれる場面を何度か見てきました。
税金以外の副次的な効果もあります。障害者控除の適用によって住民税が非課税になると、介護保険料や国民健康保険料、医療費の自己負担などが軽減される制度に連動することもあります。単なる節税にとどまらず、生活費全体の負担を左右する制度だと捉えておくと、支援の場面でも説明の幅が広がります。
障害者控除の申請方法
障害者控除の申請方法は、会社員か個人事業主かで異なります。
会社員の場合は、年末調整の「扶養控除等(異動)申告書」に、本人または扶養親族が障害者に該当する旨を記載し、区分(障害者・特別障害者・同居特別障害者)にチェックを入れて会社に提出します。障害者手帳の等級によって区分が変わるため、手帳のコピーなど根拠資料の提出を求められることもあります。
個人事業主や、年末調整で申請できなかった会社員は、確定申告で手続きします。国税庁の確定申告書等作成コーナーを使う場合、収入や控除に関する質問に答えていく途中で「本人が障害者」「扶養親族が障害者」を選択する画面が用意されており、そこで一般・特別の区分を選ぶと、自動的に控除額が反映される仕組みです。
書面で申告する場合は、申告書第二表の「本人に関する事項」または扶養親族の欄に、該当する区分の丸印をつけたうえで、第一表の「障害者控除」欄に金額を転記します。
申請を忘れていた分は5年さかのぼって還付できる
障害者控除は自動的に適用される制度ではなく、年末調整や確定申告で自分から申告して初めて反映されます。対象になるはずなのに何年も申請していなかった、というよくあるケース。
こうした申請漏れは、更正の請求(会社員以外)や確定申告のやり直しによって、過去5年間さかのぼって還付を受けられます。時効が5年であるためです。
必要になるのは、還付を申請したい年の源泉徴収票、または確定申告書の控えです。会社員であれば経理・総務担当に依頼すれば源泉徴収票を再発行してもらえますし、個人事業主であれば手元の確定申告書の控えを使います。
還付額は所得や税率によって幅がありますが、同居特別障害者に該当するケースで、5年分をまとめて申請すると還付額が数十万円規模になることもあるようです。あくまで条件次第の一例です。
「障害者手帳を持っているのに一度も申告したことがない」という家族に心当たりがあれば、確定申告の時期を待たずに一度、税務署や税理士に確認してみる価値はあります。
障害者控除に関するよくある質問
Q. 要介護認定を受けていれば、自動的に障害者控除の対象になりますか?
A. なりません。要介護認定と障害者控除の要件は別の制度です。要介護認定を受けている人が控除を受けるには、市区町村に申請して「障害者控除対象者認定書」を発行してもらう必要があります。
Q. 障害者控除と配偶者控除は同時に受けられますか?
A. はい、併用できます。配偶者が障害者に該当し、なおかつ配偶者控除の要件も満たしている場合は、両方の控除を重ねて申告できます。
Q. 16歳未満の子どもも障害者控除の対象になりますか?
A. なります。扶養控除は16歳未満の子どもには適用されませんが、障害者控除は扶養控除とは別枠の制度のため、子どもが税法上の障害者に該当すれば申請できます。
Q. 障害者控除の申請にはどんな書類が必要ですか?
A. 会社員は年末調整の申告書に区分を記載し、必要に応じて障害者手帳の写しなどを添付します。確定申告の場合も同様に、障害者手帳や障害者控除対象者認定書など、区分を証明できる書類を手元に準備しておくと手続きがスムーズです。
Q. 何年も障害者控除を申告し忘れていた場合、今から取り戻せますか?
A. 可能です。更正の請求や確定申告のやり直しにより、過去5年間までさかのぼって還付を申請できます。源泉徴収票や確定申告書の控えを用意したうえで、税務署に相談してみてください。
Q. 障害者控除対象者認定書の発行にはどのくらい時間がかかりますか?
A. 目安として1週間程度とされていますが、自治体や時期によって差があります。年度末など申請が集中する時期は、通常より時間がかかることを見込んでおくと安心です。
Q. 障害年金を受給していないと、障害者控除は受けられませんか?
A. 障害年金の受給有無と障害者控除の対象になるかどうかは、別の話です。障害者手帳を持っている、または要介護認定に基づく認定書がある場合は、年金を受給していなくても障害者控除の対象になります。


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